急性腰痛と慢性腰痛

ぎっくり腰

 急性腰痛は所謂ぎっくり腰で、急性痛による痛みです。

 急性痛とは侵害受容性疼痛のことで、痛みを感受するセンサーが働いている痛みになります。筋筋膜や椎間関節包などの組織が損傷することにより、身体が危険や警告を発している状態です。いわゆる「ケガ」です。

 急性期(炎症)にはRICEという療法があります。 R〜REST(安静)、I〜ICE(冷却)、C〜COMPRESSION(圧迫)、E〜ELEVATION(高挙)

 急性腰痛の場合には安静にし、患部を冷やすことが大事です。受傷後2日はお風呂に入らない方が無難です。捻挫や打撲の時にはCとEも大切ですので覚えておくと良いでしょう。

 急性腰痛時の安静は「横になる」ことです。座位は安静にはなりません。 腰への負担が多い順に座位、立位、臥位となります。 この安静、冷却をしない(お風呂に入ってしまう)ために、症状を悪化させて来院される方はとても多いです。 受傷が午前中の場合、適切に処置をすれば、24h後には30%以上楽になっています。受傷日より痛みが増している時は、何か間違った事をしている可能性が高いと思われます。 痛みの原因はハッキリしていますので、適切に治療をすれば1週間程で良くなります。
 

慢性腰痛

 慢性腰痛とは、一般的には症状の持続期間が3ヶ月〜6ヶ月以上続く痛みを言います。 これ位の時間が経てば、筋筋膜などの損傷は治っていますが、本人は痛みを訴えます。もちろん病院での検査でも異常はみられません。

 こういう状態になりますと、とても厄介になります。 ただその中でも良くなりやすいのは、腸腰筋、腰方形筋などの深層筋が硬くなり腰痛を起こしている場合です。特に腸腰筋はとても深い所にある為、この筋肉を直接刺激できるのは鍼治療だけではないでしょうか? 心理的な問題や脳の問題が無ければ、これらの深層筋を丁寧に緩め、日常生活の間違った行動等を修正していくことにより、とても良くなります。

  心理的な問題 急性腰痛になった時、多くの患者さんは治そうと思います。 当たり前なのですが…。

 ところが、痛みへの感受性が高い人は痛みから逃げようとします。 こんな痛い思いはしたくない! また痛くなったらどうしよう? 動かなければ痛くないから、動かないようにしよう! 動かないことによって循環障害を起こして痛む。負のスパイラルに陥ります。

 こういう患者さんは認知行動療法を取り入れながら治療していきます。少しづつ自分の考え方を修正していくしかありません。

脳、脊髄の問題

 痛みは脳が作り出すと言われます。神経から痛みの信号を受け取っても、それをどう解釈するかは脳次第なのです。

 慢性痛では脳神経系の感作、可塑性変化がみられると言われています。

 感作〜何度も痛みを感じているうちに、敏感になり痛みを感じやすくなる。

 可塑性〜弾性限界を超える外力によって生じた変形が、外力をのぞいても歪みとして残る性質です。例えば、粘土を指で押すと痕が残る現象。

 神経の可塑的変化は末梢では侵害受容器の感受性亢進(痛みを感じやすくなる)、中枢性では中枢ニューロンの反応性亢進(痛みを感じやすくなる)が起こります。これにより異痛症(アロデニア〜通常では疼痛をもたらさない微小刺激が、すべて疼痛としてとても痛く認識される感覚異常)という状態になります。 これが可塑性変化ということは、元に戻らないということになります。 大変です。

  残念ながらこういった患者さんには、こうしたら良くなりますという単純な解答はありません。可塑性とはいえ、二度と戻らないというわけではありませんが、時間がとてもかかりますので、患者さんと共に悩みながら進めて行くことになります。 どんな慢性痛(慢性腰痛)も最初は急性期があります。治すべき時にしっかり治しておけばこんな状態にはなりませんので、最初が大事ということになります。

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