陰部神経痛・骨盤痛の鍼・整体治療
陰部神経とは
陰部神経叢は第2~4仙骨神経の前枝から構成されており、尾骨に向かって斜めに下ります。梨状筋下孔〜仙棘靭帯と仙結節靭帯の間〜小坐骨孔〜内閉鎖筋にあるアルコック管を通ります。
アルコック管から下直腸神経に分岐、アルコック管を出た後に会陰神経、陰茎(陰核)背神経と順番に分岐していきます。
- 下直腸神経〜肛門周囲の皮膚感覚、外肛門括約筋
- 会陰神経〜会陰の皮膚感覚、陰嚢、大陰唇の皮膚感覚、外肛門括約筋、球海綿体筋
- 陰茎(陰核)背神経〜陰茎(陰核)の感覚
- 骨盤内臓へ行く小枝〜尿道括約筋、肛門挙筋
運動枝(外肛門括約筋、尿道括約筋)の麻痺により尿・大便失禁、排尿困難、排便障害などをおこします。
陰部神経痛の症状は
陰部神経は知覚神経と運動神経に分けられます。
・知覚神経に問題があれば、慢性的な肛門の痛み、肛門の奥の痛み、会陰痛(男性では肛門と陰嚢の間)、尾骨の痛み、性器の痛み、骨盤の痛み、恥骨上部の痛み。
・運動神経に問題があれば頻尿、切迫尿意、排尿困難、排便障害などを訴えます。
これらの症状は慢性前立腺炎(CP)、慢性骨盤痛症候群(CPPS)、筋筋膜性骨盤疼痛症候群(MPPS)、特発性肛門痛、肛門挙筋症候群、消散性肛門痛、突発性肛門痛、尾骨痛、仙骨痛、閉経関連尿路性器症候群(GSM)と診断されることもあります。女性に多い間質性膀胱炎の一部も陰部神経痛のからみだと考えています。
陰部神経と同じく仙骨2〜4番から出る骨盤内臓神経(自律神経)があり、この二つの神経が絡み合うことで、多様な症状を呈することがあります。まだ正式な病名として広く認知されているわけではありませんが、熊本の高野先生はこれを「神経因性骨盤臓器症候群」(以前は「仙骨神経障害症候群」)と名付けておられ、以下の5つを主症状とされています。
- 肛門痛
- 便やガスの漏れ
- 排便障害(残便感、排便しにくい)
- 腹部症状(腹痛、腹満感)
- 腰痛(腰痛、下肢のしびれ)
骨盤内臓神経に問題がある場合には
◎ 排便、肛門まわりの症状
- 便がでにくい、いきまないと出ない、残便感が強い、便秘、便意喪失
- 肛門の締まりが悪くなることによって便やガスが漏れる
◎ 排尿、骨盤内臓器の症状
- 排尿しにくい、尿が出始めるまでに時間がかかる、残尿感
- 下腹部の不快感、膨満感
※ 排便障害、排尿障害のうち、便意、尿意という感知は骨盤内臓神経支配ですので、それらに関する症状がある場合には骨盤内臓神経がからんでいます。
多数の病名が挙げられていますが、患者さんにとっては「この苦痛の原因は何なのか?」という強い不安の中で、診断名が付与されること自体が一定の安心感につながるとは思います。しかし、病名が確定したからといって、症状が改善するわけではありません。逆に、これだけの病名があるということは、病態が十分に解明されていないとも言えます。したがって、診断名に過度にとらわれるのではなく、実際の症状を継続的に評価しつつ、治療を進めていくことが重要と考えます。
陰部神経痛の原因は
- 座位が多く、座る姿勢が悪い。
- 自転車によく乗る
- 転倒(尻もち)
- 出産
- 更年期・骨盤臓器下垂
これらの原因によって陰部神経が絞扼(神経が絞めつけられる)されることだとされます。
絞扼部位と症状
最初にご説明したように陰部神経は順番に分岐していきます。
- 骨盤内全体に痛みや違和感がある場合には、まだ分岐が始まっていない段階での絞扼が考えられますので〜梨状筋
- 肛門周囲の症状〜仙棘靭帯と仙結節靭帯の間、陰部神経管(アルコック管)
- 会陰部、陰茎(陰核)の症状〜陰部神経管(アルコック管)

アルコック管そのもので絞扼(神経が絞めつけられる)されるというよりは内閉鎖筋の過緊張がアルコック管に影響を与え、絞扼されると考えられます。アルコック管には内陰部動脈、内陰部静脈も通過しますから、骨盤内の循環不良にも関与している可能性も考えられます(アルコック管症候群)。
初期段階では座位時にのみ痛みなどの症状を感じますが、次第に立位でも症状が現れるようになります。女性の場合、骨盤内の内臓下垂による神経圧迫が原因となることがあります。
骨盤内臓神経による症状は陰部神経と骨盤内臓神経が脊髄内で接続していますので、陰部神経の興奮が骨盤内臓神経へ波及することが原因ではないかと考えています。(1984年Lindstormらはネコの陰部神経を刺激すると骨盤底筋群および外尿道括約筋が収縮するとともに、求心性に下腹神経が興奮し骨盤内臓神経が抑制されて膀胱利尿筋が弛緩することを確認したという論文があります。)
陰部神経痛の鍼(針)・整体治療
陰部神経痛は絞扼することによっておこるとされていますので、先ずは症状から絞扼部位を推測し、梨状筋、仙棘靭帯、仙結節靭帯、内閉鎖筋を鍼で緩めます。この治療で芳しくない場合には、MPS(筋筋膜性疼痛症候群)を考慮し治療をすすめていきます。
また慢性の症例(概ね半年以上経過した場合)では、脳の可塑性変化を考慮し、脳の賦活を目的とした治療を追加します。
整体治療では腰椎・仙腸関節を調整していきます。
発症から半年以内の場合、治療直後に効果を感じることができますが、症状が戻りやすいため、2〜3ヶ月をかけて徐々に改善が見られます。半年以上経過した症例では、脳の可塑性変化も関係し、治療に半年以上かかることが多くなります。
また治療期間中、一時的に昼間排尿回数が増えることがあります。
骨盤内臓神経に由来する症状については、陰部神経に対する治療方針を基準として施術を進めます。陰部神経の症状の緩和に伴い良くなります。
参考資料

